モアサナイトとは?モアッサナイトの意味・価値・特性について

what is a moissanite stone

宝石名 モアサナイト
モアッサナイト
英名 Moissanite
和名 モアッサン石
分類 元素鉱物
化学組成 炭化ケイ素、シリコンカーバイド(Silicon carbide)
化学式 SiC
結晶系 六方晶系
モース硬度 9.25-9.5
劈開性 None
比重 3.21-3.22
屈折率 2.65-2.69
分散度 0.104
光沢 金剛光沢
カラースケール D-E-F / カラーレス
G-H / ベリー・ニア・カラーレス
I-J / ニア・カラーレス
K-M/ フェイント
N-R/ ベリーライト
S-Z/ ライト
ファンシーカラー ピンク、ブルー
レッド、グリーン
パープル、オレンジ
イエロー、ブラウン
ブラック

■モアサナイトとは?モアサナイトの特性・性質について

モアサナイト(モアッサナイト、モアッサン石)とは、世界で最も輝く宝石として知られる鉱物で、化学組成は炭素(C)とケイ素(Si)が1対1で結合した化合物の「炭化ケイ素」=「シリコンカーバイド(silicon carbide)」で、化学式はSiCで表されます。

鉱物名・宝石名の「Moissanite」は「モアサナイト」または「モアッサナイト」とカナ表記され、和名では「モアッサン石」と呼ばれます。

モアサナイトはダイヤモンドとシリコンの中間的な性質があり、高硬度、高剛性、高耐熱性、高耐薬性、高熱伝導等の特性があり化学的な安定性も非常に優れていることから、宝飾用途のみならず産業用途においての需要も高く、この場合は「炭化ケイ素」「シリコンカーバイド」「カーボランダム(carborundum)」などの名称で流通しています。

天然のモアサナイトはこれまでに隕石中にわずかに存在が確認されているのみで、地球上に限られた量しか存在していません。

天然のモアッサナイトは自然界に存在するものの、希少性が高いことから一般の使用が禁じられているため、宝飾用として流通している宝石のモアサナイトは工場で合成された人工石のモアサナイトです。

モアサナイトは光の分散度・屈折率ともにダイヤモンドをも凌駕するため、ダイヤモンド以上に輝く宝石として広く知られていますが、天然のダイヤモンドと比較して手に届きやすい価格帯で流通していることから、コストパフォーマンスに優れた宝石として評価が高く、宝石としての利用価値が非常に高いことから、海外ではアクセサリーやファッションジュエリーのみならず、結婚指輪・婚約指輪などのブライダルジュエリー市場においての需要も高まってきています。

モアサナイトはカラーレス(無色透明)以外にも、ピンク、ブルー、イエロー、グリーンなどカラーバリエーションが豊富な点も魅力の一つで、ピンクダイヤモンドやブルーダイヤモンドといった非常に高価な天然のファンシーカラーダイヤモンドの代替としても人気があります。

モアサナイトは次世代のために供給の持続が可能な素材でもあり、国内外でSDGsの取り組みが広がり、多様化する消費者ニーズの変化に応じた商品開発が求められる中、サスティナブルな宝石としても注目されるようになりました。

また、工場で生成されているモアサナイトは、紛争ダイヤモンド問題とは無縁で、紛争のない平和な世界の実現のために貢献することができるエシカルな宝石です。

紛争ダイヤモンド問題以外にも、天然ダイヤモンドが採掘されている鉱山が抱えている、自然破壊や環境汚染などの環境問題や、労働者の健康被害や強制労働などの人権問題などといった様々な問題に加担してしまう心配のない、ギルトフリーでクリーンな宝石です。

モアサナイトは地球にも・人にも・お財布にも優しい次世代の宝石として、「Z世代」や「ミレニアル世代」などの若者世代を中心とした新しい価値観を持つ消費者から支持される動きが急速に広まり、その存在価値を一気に高めています。

■モアサナイトとダイヤモンドの靭性・劈開性について

ダイヤモンドの「モース硬度」※は10で、地球上のあらゆる物質の中で最も硬く、傷や摩耗に強いとことで知られています。

※モース硬度とは、鉱物に対する硬さの尺度のことで、表面の傷つきやすさを表しており、日常の摩耗に対する耐久性に関係します。(モース硬さやモース硬さスケールともいいます。)

そのため、ダイヤモンドは絶対に損傷を受けない物質と考えている方も多いのですが、通常の着用中でも衝撃が加わった場合に欠けや割れが発生する可能性はあります。

ダイヤモンドには「劈開性」があるためです。

「劈開(クリベージ)」とは木目に沿って裂ける木材に非常に似たもので、結晶の原子配列パターンの特定の方向=「劈開面」に平行な割れのことで、劈開面に沿って力を加えると層状に剥離するように簡単に割れてしまう性質のことを言います。

これに対して、モアサナイトは炭素とケイ素が交互に配列されており、結晶の中に劈開面がない=劈開性が認められないため、ダイヤモンドよりも「靭性(じんせい)」※が高く評価されているうえ、モース硬度においても9.25~9.5と、ダイヤモンドの10に次ぐ高い硬度を誇ることから、日常的に身に着けたい普段使いのアクセサリーやジュエリーにもぴったりな非常に丈夫な宝石といえます。

※靭性とは、物質に対して力が加わった際に吸収できるエネルギー量の尺度のことで、衝撃などに対する欠けや割れの抵抗力を表しています。

しかしながら、靭性の高い宝石と評価されているモアサナイトであっても、強い力や衝撃が加わった場合に損傷する可能性は皆無ではありませんので、スポーツなど運動や、体を動かす作業など、宝石をぶつけてしまう可能性がないときにだけ、宝飾品を着用するように心掛けることが大切です。

 ■モアサナイトとダイヤモンドの比較

モアサナイトはダイヤモンドと同様に、ブリリアンス※やファイア※を伴って煌めく、ダイヤモンド光沢※と呼ばれる、特徴的な輝き方をする物理的性質を持つ宝石です。

ダイヤモンドの屈折率が2.41-2.42であるのに対して、モアサナイトの屈折率は2.64-2.69とダイヤモンドより約10%も数値が高いうえ、分散度についてはダイヤモンドの0.044に対してモアサナイトは0.104と、2倍以上の高い数値を示していて、宝石としての価値を左右する輝きにおいては、モアサナイトはダイヤモンドをも上回っています

また、油脂に対する親和性の高さから皮脂などの汚れを吸着しやすいダイヤモンドに対し、モアサナイトは油脂に対する親和性は低いため、ダイヤモンドに比べて汚れにくい特性も持っています。

ダイヤモンドと比較されることの多いモアサナイトですが、市場価値や希少性、天然石への拘り等の点を除けば、優れたコストパフォーマンスと、金剛光沢を伴う美しい輝きを兼ね備えており、ダイヤモンド類似石※の一つと考える以上に利用価値の高い宝石といえます。

※ダイヤモンド類似石 (疑似ダイヤモンド)とは、ダイヤモンドの色や質感などの外観特徴を模倣した宝石のことで、イミテーション・ダイヤモンドやダイヤモンド代替石、ダイヤモンド代用石などとも呼ばれています。

【ダイヤモンド類似石の例】

モアサナイト、キュービックジルコニア(CZ)、ホワイトジルコン、ホワイトサファイア、ホワイトトパーズ、ゴシェナイト他

※ブリリアンスとは、宝石の表面や内部に入射した光が反射して見える白色光線の輝きのこと。

※ファイアとは、宝石の内部に入射した白色光線が屈折反射することにより分光された虹色の輝きのこと。

※ダイヤモンド光沢とは、屈折率(入射した光を反射する角度を表す数値)が1.9以上を有する宝石に認められる物理的性質で、ダイヤモンドにみられる光り輝き方の特徴こと。ダイヤモンドの和名の金剛石の名に因んで金剛光沢(こんごうこうたく)とも呼ばれます。

■モアサナイトとダイヤモンドの屈折率

水に光が射し込むと、光の進行方向が曲がる「屈折」という現象が起きます。

このような、光が物質を中を透過する際に、屈折させる強さを示す値が「屈折率(refractive index)」です。

例えば、空気(気温0度/1気圧)の屈折率は1.0、水は約1.3(水温20度)、水晶は約1.5、サファイアは約1.7です。

天然の物質の中で圧倒的に高い屈折率を持っているのがダイヤモンドで、その屈折率は約2.4です。

そのダイヤモンドよりも高い屈折率を示す宝石がモアサナイトで、約2.6という高い屈折率を誇ります。

屈折率は値が高くなるほど、物質内部での光の反射が起きやすくなるため、輝きが強く見えます。

光の反射は光が浅い角度で物質に射し込むことで起こるのですが、屈折率が高い物質は、大きな角度で差し込んだ光も浅い角度に屈折させるため、宝石の内部に射し込んだ光の多くが、屈折や反射を繰り返すためです。

モアサナイトとダイヤモンドの分散度

物質に入射した光が屈折する角度は、色(波長)によって異なっており、青い光は大きな角度で、赤い光は小さな角度で屈折します。

光には色がないイメージがありますが、太陽光にも様々な色(波長)の光が含まれています。

虹が色彩豊かに輝くのも、太陽光に様々な色(波長)が含まれているからで、水滴に入射して屈折した光が色(波長)ごとに分離されて虹色に見えるからです。

※波長が長い(小さな角度で屈折) 赤>橙>黄>緑>青>藍>紫 波長が短い(大きな角度で屈折)

光が色(波長)ごとに別々に分離される現象を「分散」や「ディスパージョン(dispersion)」といい、色(波長)を分散させる度合いの大きさを表す値を「分散度(dispersity)」といいます。

分散度の高い物質は、それぞれの色(波長)が屈折する角度の差が高くなるため、色鮮やかな輝きになります。

ダイヤモンドの分散度0.044に対して、モアサナイトは0.104と、約2.3倍もの高い数値を示しています。

このため、モアサナイトはダイヤモンドと比べて光を大きく分散させるため、ダイヤモンドよりも美しいファイアが得られるのが特徴です。

モアサナイトの屈折率・分散度いずれの数値もダイヤモンドを凌ぐことが、モアサナイトがダイヤモンド以上に輝く宝石と呼ばれる理由となっています。

ちなみに、光の分散は蛍光灯下よりも暗めの白熱灯下でより見えやすくなります。

ジュエリーショップの店内が少し暗めでスポットライトと白熱灯を多用しているのも、商品として陳列する宝石を美しく輝かせるためです。

■モアサナイトとダイヤモンドの見分け方

モアサナイトはダイヤモンドは外観的な特徴が酷似してるため、目視で判別することは難しいですが、現代ではモアサナイトテスター等と呼ばれる両者を判別するための器具が安価に手に入るようになったため、容易に判別が可能になりました。

モアサナイトの屈折率は2.64-2.69、ダイヤモンドの屈折率は2.41-2.42と、屈折率も異なるため、宝石用の屈折計でも判別することが可能です。

ダイヤモンドは単屈折性であるのに対して、モアサナイトは複屈折性を示すため、宝石用ルーペを使ってテーブル面から注意深く観察すると、バック・ファセットが二重に見えるダブリング現象が確認でき、方向によっては微かにぼんやりと見えるなど、目に見える違いもあります。

また、モアサナイトは屈折率・分散率の数値がダイヤモンドよりも高く、モアッサナイトの方がダイヤモンドよりも輝く宝石であるため、ファイアと呼ばれる虹色の輝きが強く感じられます。

ルースのサイズが大きくなるほどモアサナイトのファイアは強く感じられるようになるため、ダイヤモンドとの輝きに違いを感じやすくなります。

■モアサナイトとダイヤモンドのサイズとカラットの違い

ラウンド・ブリリアントカット (57-58面体)
サイズ/mm ダイヤモンド モアサナイト
4.0 mm 0.23-0.26 ct 0.22-0.23 ct
4.5 mm 0.32-0.35 ct 0.29-0.32 ct
5.0 mm 0.45-0.50 ct 0.41-0.45 ct
5.5 mm 0.59-0.64 ct 0.54-0.59 ct
6.0 mm 0.77-0.81 ct 0.68-0.75 ct
6.5 mm 0.98-1.04 ct 0.88-0.96 ct
7.0 mm 1.21-1.29 ct 1.10-1.19 ct

モアサナイトとダイヤモンドは比重が異なり、モアッサナイトは3.21-3.22、ダイアモンドは3.51-3.52で、モアサナイトの方が少し軽いです。

ラウンド・ブリリアントカット約6.5mmの場合は、ダイヤモンドの重量は約0.98-1.04カラットであるのに対して、モアサナイトの重量は約0.88-0.96カラットなので、サイズやカラットだけで両者を判別するのは困難です。

モアサナイトがカラット表記にて販売されている場合には、ダイヤモンド等価重量(DEW=Diamond Equivalent Weight)が使用されていることがあります。

これはモアサナイトはダイヤモンドの代替石としての需要の高いためで、既成のダイヤモンド用の石枠のサイズ表記がmmではなくカラット表記であることが多いためです。

■合成ダイヤモンドとは?人工ダイヤモンドについて

2019年に日本の宝飾業界の見本市で「合成ダイヤモンド(人工ダイヤモンド)」が初めて大々的に展示され、大きな注目を集めました。

2019年が日本においての合成ダイヤモンド元年といわれており、日本のジュエリー市場において合成ダイヤモンドが一般に流通するようになってからまだ歴史が浅いため、合成モアサナイトと合成ダイヤモンドを同じ宝石と誤認されている方も多くいらっしゃるのですが、合成モアサナイトと合成ダイヤモンドは異なる別の宝石です。

「モアサナイト・ダイヤモンド」などの商品名を見掛けることもありますが、優良誤認を招きかねないフォルスネーム(False name)と言えます。

合成ダイヤモンドは天然ダイヤモンドと化学特性・物理特性・光学特性・結晶構造がすべて同じなことから、アメリカ連邦取引委員会(日本の消費者庁にあたる政府の機関)により本物のダイヤモンドと認められた合成宝石です。

合成ダイヤモンドと天然ダイヤモンドは見た目や輝き方などの外観的な特徴が全く同じなことから、プロであっても天然・合成を目視によって見分けることはできませんので、カット済みのダイヤモンドのルースが合成ダイヤモンドか天然ダイヤモンドかを判別するためには、専用の検査機器を使用する必要があります。

※合成ダイヤモンドの詳細につきましては以下のページをご参照ください。

ラボグロウンダイヤモンドとは? 合成ダイヤモンドとは?

■モアサナイトとキュービックジルコニアの比較・見分け方

キュービックジルコニアとは、鉱物学的にはジルコニウムの酸化物、二酸化ジルコニウムの結晶で、立方晶ジルコニアとも呼ばれます。

キュービックジルコニアは自然界には存在しない化学組成・結晶構造を持つ結晶を人工的に作り出した、人造石の宝石です。

キュービックジルコニアが宝石としてジュエリー市場に初めて流通するようになったのは1976年のことといわれています。

それから現在までの長い間、キュービックジルコニアはダイヤモンドに代替する金剛光沢を持った無色透明の合成宝石としてシェアを独占していました。

モアサナイトが初めて宝石としてジュエリー市場に流通するようになったのは1998年のことですが、製造工程における特許権が切れ、世界中でモアサナイトが合成されるようになったのは2016年のことなので、それから現在まで数年しか経過していないことから、日本でのモアサナイトの認知度はまだまだ低いといえます。

このため、モアサナイトとキュービックジルコニアを混同されている方も多く、「モアサナイト・ジルコニア」と呼んでいる方もいらっしゃるのですが、モアサナイトとキュービックジルコニアはそれぞれ異なる、別の宝石になります。

結晶の合成に高い技術と時間を要することから高価なモアサナイトに対して、合成が容易で大量生産が可能なキュービックジルコニアは価格が非常に手頃です。

また、モアサナイトがダイヤモンドと同様に人の手でカラーグレードやクラリティによって選別されて販売されているのに対し、経年変化により黄色く変色することのあるキュービックジルコニアはカラーグレード別で販売されていることは殆どありません。

価格差はカットグレードの違いにも表れていて、モアサナイトはD-E-F カラーレスやG-H-I-J ニアカラーレスのカラーグレードのものであれば、ダイヤモンドと同等レベルの上質な研磨が施されていることが多く、ポリッシュやシンメトリーといった全体的な品質を決める要因のとなるカットのフィニッシュやプロポーションのレベルも高いです。

同じサイズのモアサナイトとキュービックジルコニアとダイヤモンドの3つを並べて外観を目視で比較してみると、キュービックジルコニアはカットのフィニッシュやプロポーション、輝きが劣るため、目視でもすぐ判別することができます。

■モアサナイトとダイヤモンド、他のダイヤモンド類似石の特性

モアサナイト
化学組成 SiC
結晶系 六方晶系
モース硬度 9.25-9.5
比重 3.21-3.22
屈折率 2.64-2.69
分散度 0.104
天然ダイヤモンド / 合成ダイヤモンド
化学組成 C
結晶系 等軸晶系
モース硬度 10
比重 3.51-3.52
屈折率 2.41-2.42
分散度 0.044
キュービックジルコニア
化学組成 ZrO2+α
結晶系 等軸晶系
モース硬度 8.0-8.5
比重 5.50-6.00
屈折率 2.16-2.17
分散度 0.060
ジルコン
化学組成 ZrSiO4
結晶系 等軸晶系
モース硬度 6.5-7.5
比重 3.90-4.73
屈折率 1.81-2.02
分散度 0.039
サファイア
化学組成 Al2O3
結晶系 三方晶系
モース硬度 8.5-9
比重 3.98-4.06
屈折率 1.74-1.77
分散度 0.011
クリスタルクォーツ(水晶)
化学組成 SiO2
結晶系 三方晶系
モース硬度 7
比重 2.65-2.70
屈折率 1.54-1.56
分散度 0.013

 ■天然モアサナイトの発見と命名

天然のモアサナイトは、アメリカ合衆国アリゾナ州にある巨大な隕石孔「バリンジャー・クレーター」を作ったとされる隕石(メテオ)から発見された新種の鉱物です。

バリンジャー・クレーターは太古の昔(約5万年前から500万年前と推定)に、隕石が地球に衝突した際に形成されたインパクト・クレーターで、直径約1.2キロメートル、深さ200メートルほどもあり、別名「メテオ・クレーター」とも呼ばれています。

衝突した隕石は直径が約30~50メートル、重量が約数十万トンあったと見積もられていますが、そのほとんどは衝撃のため蒸発してしまったと考えられており、現在までに発見されている隕石の総重量は30トン程といわれています。

1891年、バリンジャー・クレーターから西に5~6キロメートル離れたディアブロ峡谷で、隕石の一部にあたる「キャニオン・ディアブロ隕石」が発見されました。

1893年には、ノーベル化学賞を受賞した経歴を持つフランスの化学者「フェルディナン・フレデリック・アンリ・モアッサン氏(Ferdinand Frédéric Henri Moissan)」がキャニオン・ディアブロ隕石の研究を始め、隕石の破片から微量の鉱物を発見し、研究の末、炭素(C)とケイ素(Si)1:1で構成される化合物、新種の鉱物であると結論付けました。

1905年、キャニオン・ディアブロ隕石から発見された微量の結晶は、今までに発見されていない、新しい化学組成・結晶構造を持つ鉱物であることが認められ、「モアサナイト(Moissanite)」と命名されました。

尚、キャニオン・ディアブロ隕石からは、モアサナイトのほかにも「ロンズデーライト(Lonsdaleite)」「ハキソナイト(Haxonite)」「クリノフ石(Krinovite)」などの新種の鉱物がこれまでに発見されています。

モアサナイトは隕石衝突のような稀な条件下でしか生成されないため、隕石中にわずかに存在が確認されるのみで、天然の大きな結晶はこれまでに見つかってはいますが、透明の結晶は現在までに発見されていません。

■モアサナイトの意味とは?名前の由来

1905年、隕石から発見された結晶は、フランスの化学者「アンリ・モアッサン(Henri Moissan)」の名前に因み、「Moissan」+「-ite」から「Moissanite」と命名されました。

「-ite」は「鉱物」や「化石」を意味する接尾辞で、「石」の意味を持つギリシャ語「リトス(lithos)」が語源となっています。

鉱物名・宝石名の「Moissanite」は「モアサナイト」または「モアッサナイト」とカナ表記され、和名では「モアッサン石」と呼ばれます。

■鉱物名・宝石名の命名ルール

新種の鉱物は、鉱物学の発展と約5,000種の鉱物名の統一を目的とする国際組織である「国際鉱物学連合(IMA: International Mineralogical Association)」の「新鉱物・鉱物名委員会 (CNMNC: Commission on New Minerals, Nomenclature and Classification)」において審査を受け、その承認を得る必要があります。

新しい化学組成・結晶構造を持つ鉱物を発見した場合は、その地質作用や科学的根拠を明記した申請書を委員会へ提出します。

申請の際に鉱物の名前(学名)も自ら提案できますが、発見者の名前をつけてはいけないというルールや、一部の鉱物グループには命名規約が存在することもあります。

多くの場合は、地名・献名・特徴的な外観・化学組成などに由来するものが多く、名前の最後に「-ite」や「-lite」を付けます。

委員会は提出された申請書に基づいて鉱物と鉱物名・命名理由を数ヶ月かけて審査され、承認されると新鉱物が誕生します。

Synthetic Moissanite Loose Stone

■合成モアサナイトの歴史

1980年頃より電気炉でモアサナイトを量産する技術の開発が始まり、1996年にアメリカの「Cree Research Inc.」社が透明な宝石質結晶の合成に成功すると、モアサナイトの製造工程における特許を取得し、販売会社となった「C3 Inc.」社が専売契約し、1998年に世界初の合成モアサナイト・ジュエリーの販売をはじめました。

「C3 Inc.」社は翌年1999年に会社名を「チャールズ&コルバード(Charles & Colvard, Ltd.)」社に変更したため、世界初の合成モアサナイト・ジュエリーのブランドとして「チャールズ&コルバード」の名が広く知られるようになりました。

「チャールズ&コルバード」社はカラーグレードD-E-F、クラリティIF-VS1、カットグレードEx(H&A)の最高品質の合成モアサナイトのルースなどを製造販売していることから、ブライダルに特化したモアサナイト・ジュエリーをメインで取り扱っています。

合成モアサナイトの製造工程における特許が2015年にアメリカで有効期限を迎えたのを皮切りに、2016年には世界25か国、2018年にメキシコで有効期限を迎えており、現在ではアメリカをはじめ中国やロシアなどの各国で、質の高い合成モアサナイトの製造が行われるようになりました。

モアサナイトは産業用途においては「炭化ケイ素」=「シリコンカーバイド(silicon carbide)」の名称で流通しており、当初は純度の低い灰褐色~黒色の微細な結晶が研磨剤などの用途で流通していましたが、次第に半導体としての需要が増加したことから、結晶育成技術は目覚ましく向上し、品質が大幅に改良され、高純度で大型の結晶の合成が盛んに行われるようになりました。

ここ数年で合成ダイヤモンド(ラボグロウダイヤモンド)の需要が高まり、その市場規模も急速に拡大していますが、合成モアサナイトの製造エネルギー消費量は、合成ダイヤモンドと比較しても1/100程度と省エネルギーでCO2排出量が少なく、製造プロセスにおけるコストが低いことや、自然環境への負荷が合成ダイヤモンドよりも少ないことから、合成モアサナイトの需要は今後も拡大することが予想されています。

 ■エシカルな素材・サスティナブルな素材として注目されるモアサナイト

ここ最近、「エシカル(ethical)」※や「サステイナブル(sustainable)」※といったキーワードを耳にするようになってきました。

※エシカルとは、「倫理」「道徳律」を意味する名詞「ethic」に、名詞の末尾に付いて形容詞を造る接尾辞の「-al」が付いた形容詞で、「倫理的」「道徳的」などの意味。

※サスティナブル(sustainable)とは、「持続する」という意味の「sustain」と、「~できる」とい意味の接尾辞「able」からなる形容詞で、「持続できる」「継続できる」などの意味。

「エシカル」や「サスティナブル」は、「自然環境」「地球の資源」の維持や保全に配慮した事業や開発、未来の「人間の文明」「経済システム」を損なわないことを前提とした社会発展、違法な低賃金労働・強制労働・児童労働などの「人権問題」を解決するための労働環境の整備やフェアトレード(公正貿易)の取り組み、などを表現する際に使われるようになった用語で、世界中の様々な分野に広がっています。

海外と比較して、日本ではエシカルやサスティナブルの言葉の認知度はまだ低いといえますが、世界では消耗品のカップやビニール袋の代わりにマイタンブラーやエコバッグを持ち歩くといった日常の小さなアクションから、大きなムーブメントへと変化し、消費動向にも大きな影響を与えるようになっています。

買い物を通じて世界が抱えている様々な問題の解決の一端を担う、という社会貢献志向の消費行動を「エシカル消費」「ソーシャル消費」「倫理的消費主義」などといいます。

環境問題や社会問題の解決に貢献できる商品を購入し、問題の悪化に加担してしまう恐れのある商品は購入しない等、製品の倫理性に敏感になっている新しい価値観を持つ「Z世代」や「ミレニアル世代」の消費動向はエシカル志向へと確実に変化しつつあります。

そんな中、CVD法やHPHT法で生成された合成ダイヤモンドが「紛争を起こさない」「人権侵害に加担しない」「自然環境を破壊しない」等の側面から「クリーンなダイヤモンド」と評価され、「エシカル ダイヤモンド」や「サスティナブル ダイヤモンド」として支持される動きが急速に広まり、その存在価値を一気に高めるようになりました。

合成ダイヤモンドに注目が集まったことにより、既にジュエリー市場に流通していた合成モアサナイトをはじめ、合成エメラルド、合成アレキサンドライト、合成ルビー、合成サファイア、合成スピネルなどの以前からジュエリー市場に流通していた他の合成宝石 (人工宝石)も、「エシカルな素材」且つ、次世代のために供給の持続が可能な「サスティナブルな素材」として再評価されるようになり、SDGsの取り組みに積極的なエシカルジュエリー※といったジュエリー業界の新しいジャンルのブランドの商品に採用されるようになり、その人気も高まってきています。

※エシカルジュエリーとは、環境問題や社会問題などの解決に貢献できる素材を使用したジュエリー、あるいは環境問題や社会問題などの悪化に加担してしまう恐れのある素材を使用していないジュエリーのことです。

商品そのものの価値を提供するだけでは消費者に商品が選ばれることが難しくなってきている今日、多様化する消費者動向の変化に応じた商品開発が必要となってきています。

全世界におけるダイアモンドジュエリーの売上の3分の1近くを占めているといわれる婚約指輪に、天然ダイヤモンドに代替して合成ダイヤモンドや合成モアサナイトなどの合成宝石が選ばれるようになってくるのか、今後の消費者動向の変化に注目が集まっています。

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